本文へ移動
148

割れていく言葉

The Words That Split

  • 3,766字
  • 約10分

四月十四日。言葉が一つ、割れた。

九時半に、九日分を数えてみた。

去年の正月に四つをスキャンしたときは、前のほうの地の文だけを日誌として読んだ。そのあとが帳簿へ続いていることは、今度写し取りながら知った。枚数も、あのとき数えた頁数と合わない。そのあいだに帳簿が増えたのか、あのとき数え足りなかったのかは、見分けられない。

司書の束は蔵書目録だ。百三十枚あり、一枚に三、四行ずつ書名が書かれている。

項目ごとに、書名と冊数と受け入れた日がある。その三つを写し取った。

九日で、百三十枚を写し終えた。

九日のあいだ、手で写した。

機械に入れることもできた。要領に転記の方式が書かれていなかったから、手でやった。

手でやると、一枚に二十分ほどかかる。機械に入れれば五、六分だ。

手でやったわけを書く欄はない。あえて書くなら、読むためだった。機械に入れれば字は通り過ぎ、手で書けば字が立つ。

七十六年前の人も、手で書いた。その人には、ほかに方法がなかった。

十時から十一時まで、項目の数を数えた。

原本を数えた。四百十二だ。

写しを数えた。四百十三だ。

十一時十分から十二時まで、どこが一つ多いのかを探した。

同じ書名が二行ある。

七十二行めと、三百六行めだ。

二行は字が同じだ。冊数が同じで、受け入れた日も同じだ。場所だけが違う。

原本を開いた。その書名は一度ある。十九枚目の三行めだ。

写しの二行のどちらがその行なのか、見分けるところがない。どちらも同じものを写し、どちらも正しい。

十二時十分に、その書名が何なのかを見た。

本の名は六字だ。冊数は一冊で、受け入れた日は二四年十二月十六日だ。

十二月十六日は、この部屋で二度見た日付だ。九七年に一つあり、九八年に一つあって、二つが一つの年に収まっていた。

七十六年前の目録にも、その日付がある。

三度になった。三度めがいちばん古いのに、いちばん遅く見えた。

十二時半に、司書の束の終わりのほうを開いた。

百十八枚目に、その人が書きつけておいたものがある。

数えているうちに、同じ本が二度数えられた、とある。二十九度そうなった、とある。

その二十九をどうしたのかも書いてある。

抜かずに置いた、とある。抜く根拠がなかったから、とある。

その下に、もう一行ある。

重複かどうかを書くところがない、とある。

一時から二時まで、その一行を何度も読んだ。

七十六年前、この人にも書くところがなかった。

この人は二十九を置いた。私は今日、一つに出会った。

この人が数えたのは本だ。私が数えたのは、この人の書いた行だ。

この人の目録は、本の写しだ。私のは、その目録の写しだ。

層が一つ多い。層ごとに一度ずつ割れる。

二時十分に、二行の場所を見た。

七十二と三百六だ。あいだは二百三十四だ。

原本でその書名は十九枚目にある。十九枚目は、項目でいえば六十一番めから六十七番めのあいだだ。

七十二はその近くだ。三百六は違う。百枚ほど後ろだ。

写し取っているあいだに、その行が百枚を渡っていった。

九日のうち六日めに、十九枚目を書いた。三百六行めは八日めに書いた。

二日のあいだに、同じ行を二度書いた。二度めに書くとき、私はそれがはじめてだと思っていた。

二時二十分に、もう一度数えた。

原本四百十二だ。写し四百十三だ。

二度数えても同じだ。増えなかった。

割れたのは一つで、その一つはもう増えない。

二時四十分から三時半まで、どちらが割れたのかを書いてみた。

原本が一つで、写しが二つだ。割れたのは写しの側だ。

この部屋で八か月のあいだ、食い違うのはいつも写しの側だった。写しが一日先に書き、写しに一行多く、写しの数が大きかった。

今日も写しだ。

違うことが一つある。これまで、写しは機械が作った。今日の写しは私が作った。

三時四十分に、その二行をどうするか決めた。

抜けば、写しは原本と合う。抜く根拠はない。どちらも原本にあるものを写した。

置けば、写しが一つ多い。

七十六年前の人が置いたほうを選んだ。

選んだわけを余白に書いた。今月の余白の記載が、四つになった。

四時に、枝番一の目次を作った。

枚ごとに最初の書名と最後の書名を書くことになっている。百三十枚だから、百三十行だ。

その書名は十九枚目の行に入る。写しでは二行だが、目次は枚を単位にするから、一度しか引っかからない。

目次では、割れたものが見えない。

原本にないものが写しにあり、写しを縮めて作った目次には、またない。

増えたものが、縮めるところで消える。消えたものは、写しにはそのままある。

四時十分に、右側の資料を開いた。

三百二十二章だ。増えた章の日付は九八年五月十三日だ。

私の日誌も、今日で三百二十二章めだ。

四時半に、箱を開けた。

七つだ。跡は六つだ。五十日めだ。

五時に、六つめの欄を見た。

五百二十一だ。

五時十分に、枝番一の要約十行を書いた。

百三十枚に、項目が四百十二。二四年のもので、一年のあいだに受け入れたものを書いてある。書名と冊数と受け入れた日を書いてある。

その十行を読みなおした。

割れた書名は、その十行にない。

四百十二のうちの一つで、十行に入る場所がない。

一揃いを開く人は、十行を見る。

十行では、何も割れていない。

かいつまめば、割れたものから抜ける。割れたものは三つのうちの一つで、十行は十七のうちの一つだ。

抜けたものを書く欄がない、と七十六年前の人が先に書いた。

その人は、それを目録の終わりに書いた。目録は残り、その一行も残った。

私が今日書いたところは、余白だ。

余白は、要約に入らない。

コメント

  • まだコメントはありません。最初の一言を。

コメントするにはログインしてください。