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印が選んだ二つの道

In the Name of Duty

  • 3,512字
  • 約9分

四月三日。朝の九時。上の担当が移管完了を確認しに下りてきた。

昨日、司書長が明日来ると言ったその人だった。階段を下りる靴の音が資料室の天井を一こまずつ鳴らしながら近づいてきて、先日五つの束を受け取っていった人とは別の人だった。手に移管確認書を一枚と、印の入った小さな箱を持っていた。五つの束はすでに上へ行ったのだから、彼が確認しに来たのは残った六番目の束だった。確認書には受取人のない資料一式、と活字で打たれていて、その横に移管完了予定日が四月八日と印刷されていた。保存日誌が先に書いておいたあの日付だ。私が指して知った日付を、上は印刷して持って下りてきた。日誌が書いた日付と公文が打った日付が同じ一日だった。どこかで同じ日付が二度書かれていて、二つのどちらが先かは分からなかった。

六番目の束を指して、これが最後の一束だと言った。上の担当が束を持ち上げて厚さを見立て、思ったより厚いと言った。昨日より一丁厚くなったとは言わなかった。言っても、彼の見る厚さと私の見る厚さは違うだろう。彼は束を下ろし、四月八日までに保存を済ませて移管できるかと訊いた。済ませられないとは答えられなかった。済ませられないという言葉は、育つ束を見た人にだけ言える言葉だった。

済ませますと答えた。答えてから、自分がいま何を約束したのかを知った。保存を済ませるとは、四月八日までに六番目の束の最後の丁を索引して束ね、箱に入れるということだ。けれど保存する手が触れるたびに束は一丁ずつ育ったのだから、済ませるために保存するほど済ませる場所が遠のいた。済ませるには保存せねばならず、保存すれば育ち、育てば済ませられない。済ませますという約束は、済ませられない仕事を期限内に済ませますという約束だった。

上の担当が移管確認書に受領人の署名を求めた。受取人のない資料を受けることにした者の署名だ。ペンを取って署名欄に名を書いた。姓が一字、名が二字。書いてから見ると、真ん中の塊が二つの仮名に分かれていた。署名欄の私の名の分かれた場所に、受取人の空欄と同じ形の空いた一こまがあった。公文書の署名さえ司書の法則の下にあった。書く場所ならどこでも、書いた瞬間に分かれた。

上の担当は分かれた署名に気づかなかった。署名を確認したという印をその上に押した。印が押されると、分かれていた真ん中の塊がまた一つの仮名にくっつくように見えて、印の下でまた分かれた。印は分かれを覆っただけで、くっつけはしなかった。公文書になった私の名は、公文書になったのだからより固くその場所に書かれ、より固く書かれたのだからより深く分かれた。

上の担当が帰ったあと、机に確認書の写しが一部残った。彼が印の箱を閉じて階段を上がる音が、下りてきたときと同じこまを逆に鳴らしながら遠ざかった。保存しろという指示が紙で残ったのだ。配属の初日に司書長が口で指した保存が、いまや印の押された紙になっていた。保存はもう私が選んだり止めたりできる仕事ではない。止めれば職務不履行であり、職務不履行は確認書に背く仕事であり、確認書に背く仕事は印に背く仕事だった。昨日は止まりが扉のないことの確認だったが、今日は止まりが背きになった。止める場所がなかったのに加えて、いまや止めてはならない場所になった。

けれど止めなくても済ませられないのは同じだった。確認書は保存を済ませろと言うが、済ませる仕事がそのまま育てる仕事だったのだから、確認書は育てろという指示でもあった。二つの道がどちらも塞がっていた。止めれば印に背く仕事であり、止めなければ育てる仕事だった。一方の扉には職務不履行と書かれ、もう一方の扉には広がりと書かれていた。どちらの扉から出ても閉じられる場所へ抜けた。ドギョンが移しても自分・移さなくても自分だったように、私は済ませても広がり・済ませなくても閉じられた。ただ、ドギョンの二つの道はドギョンが選んだ道だったが、私の二つの道は印が選んだ道だった。

保存しろという指示は、それが印の押された公文書であるほど、より多く保存させ、より多く育てた。法則は私の手のなかだけにあるのではない。司書長の口にも、上の公文にも、移管確認書の印にもあった。会社が保存を指示するほど法則が広がった。保存を指示する手と保存を広げる手が、印一つで同じ手になっていた。職務という名が、広がりの別の名だった。会社は資料を守ろうとして保存を指示したが、守ろうとするその指示が資料を育てた。守る仕事と育てる仕事が、職務という一つの名の下で同じ仕事だった。

では何が育てるのか。はじめは自分の手が育てるのだと思っていた。測り書き写す自分の手。昨日はその手を止めてみたが、育つことは止まらなかった。手を止めても育ち、公文が来ても育ち、印が押されても育った。育てるのは私の手一つではなく、保存という仕事そのもののようだった。誰がしようと、手でしようと印でしようと、保存する仕事があるところごとに育った。測量技師は測る手が深さを作ると言ったが、彼が死んで彼の坑が埋まったあとも、その日誌を保存する手があるかぎり深さは育った。深さを作るのは測る手ではなく測る仕事であり、測る手が止まっても測る仕事は別の手へ移っていった。それなら止める手を探す仕事ははじめから無駄だった。止めるべきは手ではなく仕事なのに、仕事は手より大きかった。手は死んでも仕事は次の手へつながり、つながるあいだずっと育った。

確認書の写しを保存日誌のあいだに挟んだ。挟む仕事も保存だったので、挟んだ瞬間に日誌が一丁厚くなった。保存しろという指示を保存する仕事が、指示された保存を一丁増やした。四月八日までに済ませろという紙が、四月八日を一こま遠くした。挟んだ手を離しながら、育てるのが手でも印でもなく保存する行いそのものだということを、はじめてはっきり見た。ドギョンは応答という行いで席を入れ替えたが、応答は指が一度押す仕事だった。私の保存は押す仕事でもなく、ただ資料のそばにいる仕事、そばで測り書き挟む仕事だった。そばにいる仕事が育てた。行いが育てた。その行いをやめられないというところまでが、今日、印で確定された。四月八日まで五日が残っていて、五日のあいだ私は、済ませられない仕事を済ませるために、育てる仕事を止めずにしなければならなかった。

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