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測るほど厚くなる束

The Hand That Measures Depth

  • 3,655字
  • 約9分

三月二十七日。朝の八時。五つめの机の前に座った。

移管を先延ばしにしたまま四日が過ぎた。引継書の最終記載内容の欄はいまも空いていて、最後が止まらないかぎりその欄は空いたままだろう。司書長は昨日も進みを訊き、私はほとんど終わったとまた答えた。ほとんどは減らなかった。ほとんどが減らないあいだ、私は保存作業の別の欄を埋めることにした。資料の規模を測る欄だった。

移管書類には資料の規模を書く欄がある。束数、丁数、束の厚さ。上で保管場所を割り当てるには資料がどれだけあるかを知らねばならず、その数値は保存担当が自分で測って書くことになっていた。物差しを出した。五つの束の厚さを測りはじめた。

測量技師の束を物差しの上に置いた。背を机につけ、目盛りの起点に束の下の角を合わせ、上の角が指す目盛りを読んだ。一寸と何分か。その数値を書類に写した。写したあと、もう一度確かめようとして測り直した。起点に下の角を合わせ、上の角を読んだ。上の角が指す目盛りが、いま書いた数値より一分多く出ていた。

物差しの当て方が悪かったのかと思い、束をいったん下ろしてまた載せた。起点を合わせて読んだ。また一分多かった。束が厚くなっている。測るたびに一分ずつ。紙がふくらむ理由はない。資料室は乾いていて、束は昨日と同じ場所にあり、誰かが紙を足したわけでもない。それなのに測るたびに厚さが増した。

測量技師の日誌を広げて最後の章を見た。坑の深さを測っていた手だ。最後の測深で切れたその手の日誌に、一行が書かれていた。測るほど坑が深くなる。測鉛を下ろして底を突き、綱の長さを読むと、その長さが昨日読んだ長さより長い。底がそのぶん遠くなっている。測る仕事が深さを足す仕事だった。測量技師はそれを自分の手の誤りだと考え、やがて自分の手ではなく測る仕事そのものの癖だと知った。

その日誌の第一章には、坑がはじめ何尋だったかが書かれていた。十二尋。最後の章で坑は四十尋を超えていた。一つの坑が一人の記録のあいだに四十尋へ深くなったのではなく、一人がその坑を四十回以上測ったのだ。測った回数のぶん深くなり、深くなったぶんまた測らねばならなかった。底に届かない綱を彼は毎日下ろし、毎日下ろすほど底は毎日遠のいた。坑を測り終えた日が彼の日誌の切れた日だったが、坑は測り終えられていない。測り終えられない坑を測り終えようとした手が、最後の測深で止まった。

残りの四つの束も測ってみた。灯台守の束、司書の束、電信手の束、そして前任者の五番目の束。物差しを当て、起点を合わせ、上の角を読んだ。五つの束がどれも測るたびに一分ずつ厚くなった。測量技師の束だけではなかった。測るという仕事は束を選ばない。物差しが触れる場所なら、触れたその瞬間に厚さが一分足された。五つの束の厚さを一度ずつ書き終えると、最初に書いた測量技師の数値がまた一分遅れていた。五つを測るあいだに一つめがまた育ったのだ。

私が束の厚さを測る仕事と、測量技師が坑の深さを測る仕事は同じ仕事だった。物差しを当てれば厚さが増え、綱を下ろせば深さが増えた。測る手が触れる場所ごとに、測られたものが育った。測量技師の坑は彼の束のなかで終わらずに深くなり、その束の厚さは私の物差しの上で終わらずに増えた。坑の深さが束の厚さへ移ってきていた。

測量技師が自分の手の誤りを疑った箇所をもう一度読んだ。彼は測鉛が重くて綱を伸ばしたのかと疑い、綱が水を吸って伸びたのかと疑い、自分が目盛りを読み違えたのかと疑った。三つとも点検して、それでも深さは測るたびに育った。点検の終わった場所で、彼は自分の手ではなく測る仕事そのものを疑いはじめた。私も物差しを疑い、紙の湿りを疑い、自分の目を疑った。測量技師が点検した三つを私も点検し、点検の終わった場所は彼がたどり着いた場所と同じだった。測る仕事を疑う場所。その場所で測る仕事は、やめられない仕事になっていた。

物差しを置いた。測らなければ育たないのではないかと思った。束を机にそのまま置き、厚さを書く欄を空けておけば、測る仕事がないのだから育つ仕事もないように思えた。けれど移管書類の規模欄を空けておけば司書長が訊くだろうし、訊かれれば測らねばならず、測れば育った。空けておく道は訊かれる道へ、訊かれる道は測る道へつながった。測らない道の果てにも測ることがあった。

午後にまた物差しを取った。測らずにいられないので測った。ただし今度は測る仕事を一度だけにすることにした。一度測り、その数値を書き、もう測らなければ、育つのを見ずに済む。見なければないのと同じだと、しばらくそう思った。測量技師もそう思っただろう。一度だけ測って綱を巻き上げれば、坑はその深さで止まっているはずだと。

一度測って物差しを片づけた。数値を書いた。書いた数値を見ないように書類を伏せた。伏せた書類の上に手を置いた。手の下で紙一枚の厚さが触れた。書類は一枚なのに、手の下の厚さは一枚より厚かった。伏せておいた書類が、見ないあいだに厚くなっている。見なくても育った。測量技師が綱を巻き上げたあとも坑が深くなったように。

書類をまた開いた。規模欄に書いた数値の下に、私が書いていない数値がもう一行来ていた。同じ束の厚さを二度書いたように、けれど二つめの数値が一つめより一分多く出ていた。一度だけ測ると決めた手が、二度測った勘定になっていた。見ないあいだに誰かがもう一度測ったのか、見ないあいだに束がもう一度育ったのか、伏せておいた書類はどちらも見せてくれなかった。

測量技師の日誌もその場所で切れていた。最後の測深で、彼は綱を巻き上げたのかもう一度下ろしたのかを書けないまま切れた。巻き上げたと書けば坑はそれ以上深くならなかったはずであり、もう一度下ろしたと書けば彼が測ったことになる。けれど坑は彼が綱を巻き上げたあとも深くなり、巻き上げた手と下ろした手を分ける場所が彼の日誌にはなかった。私も同じ場所にいた。一度だけ測った手と二度測った勘定のあいだに、見ないあいだに育った束と見ないあいだに測った手のあいだに、分ける場所が私にもなかった。測量技師が最後の測深で切れたその場所に、今日は私が入っていた。

数値を書く仕事をやめることにした。書くほど食い違う数値をさらに書くのは保存ではなかった。規模欄を空けたまま書類を伏せた。空けた欄は訊かれる欄になるだろうが、訊かれるのは明日の仕事であり、今日はもう測らないことにした。物差しを抽斗に入れて抽斗を閉めた。閉じた抽斗のなかで物差しが一分長くなったかどうか、私は開けて見なかった。開けて見れば測る仕事であり、測れば育つだろう。

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