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直すものが増える

More to Correct

  • 3,512字
  • 約10分

七月十日。昨日の返信に書かれていたあの明日が、今日だった。

出勤して、まず日誌を開いた。第七十二章は空いていた。章番号も書いていなかった。昨日の退勤時にも書かず、今朝もまだ書いていなかった。

写しには、あった。

返信の投稿者名を見た。昨日は本文の三行を読んだだけで、名前は見ていなかった。四桁だった。私が昨日アカウントをつくるとき、名前の欄に入れたあの四桁だった。

押してみると、アカウントの頁が開いた。書き込みが二つあった。一つは昨日の四時五十一分に上げた私の訂正文だった。もう一つは、昨日の五時四十分に上がった返信だった。

同じアカウントだった。

私は接続記録を確かめた。昨日の四時二十分にアカウント作成、四時五十一分に掲示、四時五十三分にログアウト。そのあと接続記録はなかった。今朝の九時六分にログインしたのが、二度目の接続だった。

五時四十分にそのアカウントで書き込んだ接続は、記録になかった。

前任者の日誌に、同じ場所がある。筆跡は自分のものなのに書いた覚えがないと、あの人は書いていた。私はその箇所をスキャンしながら、文としてだけ読んだ。今日その文が、画面の上にあった。筆跡の代わりにアカウント名があり、引き出しの代わりに接続記録があるだけだった。

違うことが一つある。前任者は自分の筆跡に気づき、私は自分の名前に気づいた。筆跡はまねられる。名前は四桁の数字だ。まねと呼ぶには簡単すぎる。偶然と呼ぶには、よりによって昨日つくった名前だった。

パスワードを変えた。変える前に、古いパスワードを一度打ってみた。昨日私が決めたとおりのもので入れた。他人が突き止めた形跡があるなら、たいていは変えておくものなのに、変わったところはなかった。新しいパスワードは紙に書かなかった。書けば、書き写すことになる。

返信を消した。消えた。写しの行は消えなかったのに、この返信は消えた。消えるということが、かえって妙だった。消せるものと消せないもののあいだにどんな線が引かれているのか、私にはまだ分からない。

消したあとで、検索をした。

返信はもう二か所に写されていた。昨日の夕方から今朝までのあいだに、誰かがあの三行を書き写したのだ。書き写した人は、それが資料の原文の一部だと思ったと前書きに書いていた。章番号と日付と数値二つという書式が、うちの箱から出たほかの箇所と同じに見えたのだろう。

転載された二つを開いてみた。一つは、あの三行だけを切り離して別の箇所のあいだに挟みこんでいた。前後の段落と活字が同じで、どこからが挟みこまれた場所なのか印がなかった。もう一つは三行をまるごと写し、最後に疑問符を一つつけていた。疑問符をつけた人は、この箇所がどういう意味なのかを尋ねていた。答えられるのは私だけで、答えれば一部増える。

私が消したのは、元の一部だった。写された二部は、そのままある。

訂正文の書き写された版を一つずつ開いてみた。四つあった。四つのうち一つで、引用箇所の一字が違っていた。坑の深さを書いた場所で、単位が一つ変わっていた。書き写しているうちに目が滑ったのだろう。前の三つは合っていた。

昨日、私はまちがった文を一つ正そうとして原文を上げた。上げた原文が書き写されるうちに、また一つまちがった。昨日のまちがった文は十六部にあり、今日のまちがった一字は一部にある。一部というのは、昨日の十六部が始まった場所でもある。三つめの版のあの一行も、はじめは一部だった。

正せば、原文がまた一部広がる。広がった原文で、また一つまちがう。昨日私はこの勘定をもうしていて、そのときは二項だった。今日は項が一つ増えた。正すことが、次に正すことをつくる。

上げないほうも勘定してみた。単位が一つちがう版は一部だ。一部は小さい。ただ、昨日十六部になったあの文もはじめは一部で、一部から十六部になるまでにかかった時間を、私は数えておかなかった。数えておけば、今日その一部についてあと何日残っているのか見積もれただろう。数えておかなかったことが、今日はじめて惜しかった。そして数えておくには開かなければならなかったことを、すぐに思い出した。

だから、二度目の訂正文を上げれば三度目があるだろう。これは推測ではなく、昨日と今日の二度で確かめられた順序だ。

三時、二度目の訂正文を上げた。単位を一つ正した。その下に、昨日上げた訂正文のアドレスをつけた。つけておけば、書き写す人に原文を指し示せると考えた。つけてから気づいた。アドレスをつけたということは、昨日のものを開く人が増えるということだ。開けば上がる。

四時に検索した。二十四だった。昨日の五時には二十一だった。

三つ増えた。その三つのうち一つは、私が三時に上げたものだ。残りの二つは、私の訂正文を書き写したものだ。昨日私が一つ足すと、今日二つがついて増えた。私の足した一つは、勘定では一つだった。その一つが、翌日には三つになった。

午後、三階から人が下りてきた。四半期の移管目録を確かめに来た人だった。目録を突き合わせて判を捺し、上がっていきながら、その人は画面をちらりと見た。掲示板が開いていた。近ごろはああいうところにも資料が出回るのかと、その人は聞いた。出回ると私は答えた。その人は笑いながら、うちのものもあるのかと聞いた。ないと私は答えた。答えてから、その答えが今日何度目の書き写しなのかを勘定してみた。話したことは数に入らない。ただ、話したことも書き写されれば入る。

測量日誌のあの人は、同じ場所を何度も測った。測ることはその場所に手を触れることではないと、昨日書いた。今日直せば明日直すものが出てくると分かっていて、私は今日直した。あの人が測れば深くなると分かっていて測り続けたことと、いま私のしていることのあいだの距離を、私は昨日一日ぶん縮めた。

退勤する前に、日誌の第七十二章を書き終えた。今日したことを順に書いた。返信の確認、接続記録の照合、削除、転載の確認、再訂正、検索。時刻を横に書いた。

書いてみると、今日書いたものは昨日書いたものと同じかたちをしていた。昨日も確かめ、写し、数えたし、今日も確かめ、写し、数えた。違うのは数値だけだった。日誌が同じかたちで続くあいだ、その中の数だけが大きくなった。測量日誌のあの表が、そうだった。

書き終えてから、写しを開いた。

第七十二章の空いた数値が埋まっていた。二十四。

その下に、三行増えていた。第七十三章、第七十四章、第七十五章。日付は明後日、しあさって、その次の日だった。数値は三つとも空いていた。

昨日までは一章ずつ先を行っていた。今日は、三章を一度に先へ行った。

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