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送る場所

The Box Transferred

  • 3,506字
  • 約9分

四月六日。朝の八時。五つめの机の前に座った。二日が残っていた。

日誌が書いておいた次の処理は移管だった。六番目の束を箱に入れて上へ送る仕事。保存が資料を資料室のなかに置く仕事なら、移管は資料を資料室の外へ出す仕事だ。なかに置く仕事と外へ出す仕事は反対だったが、日誌では二つが一行につながっていた。反対の二つが一行につながるということが、どこか妙でありながら妙でもなかった。保存完了、その下に移管完了。保存が終わる場所で移管がはじまり、移管は保存の終わりではなく保存の次だった。

空の箱を持ってきて机に載せた。ボール紙の箱で、持ち上げると思ったより軽く片手が上へ上がった。先日、五つの束が入っていたのと同じ種類の箱で、底に同じ木目の模様があった。プナコティック文庫の箱だ。受取人のない資料が入っていた箱、そしていま六番目の束が入る箱。束を持ち上げて箱へ入れようとして、入れる仕事が保存なのか移管なのか迷った。箱に入れる仕事は保存でもあり、箱ごと送る仕事は移管でもあった。入れる手と送る手が同じ手だった。

ドギョンの日誌に似た箇所がある。本社から保存しろという通達が下りた日、ドギョンは保存がそのまま写し取りであり、写し取りがそのまま育ちであることを知った。保存しろという指示が、育てろという指示だった。その日以後、ドギョンの資料室へ他社の箱が移管されてきた。箱ごとに別の会社の記録担当のノートがあり、ノートごとに同じ文が同じ場所で切れていた。法則は一つの資料室だけにあるのではなく、記録の集まるすべての場所にあった。ドギョンはその箱を受ける場所にいた。私はいま、その箱を送る場所にいる。

受ける場所と送る場所は違った。ドギョンには法則が箱に入って来たが、私からは法則が箱に入って出ていく。ドギョンの資料室が法則の集まる場所だったのなら、私の資料室は法則の広がっていく場所だった。上へ送った五つの束は、いまごろ上のどこかの机に置かれているだろう。その机に座る誰かが、配属の翌日の私のように、受取人のない資料を開いて見ているだろう。私が送った場所が、誰かの配属の翌日になっているはずだった。

あの春にはそんな箱が一つや二つではなかった。潰れた会社ごとに記録が残り、残った記録はどこかへ移管された。清算する会社の帳簿が生き残った会社へ、生き残った会社の帳簿がより大きな会社へ、より大きな会社の帳簿が結局一つの場所へ集まった。集まるあいだ、帳簿の下の数はずっと育った。一つの会社が潰れるとき一つの資料室が法則を受け、その資料室が潰れるとき次の資料室が受けた。国じゅうが一冊の束のように一つの場所へ写し取られている最中であり、写し取られるあいだその一冊の終わりの桁が育った。私の箱一つはその大きな写し取りの一こまだった。私が送らなくてもその写し取りは止まらないだろうが、私が送ればその一こまぶん多く写された。

箱に束を入れ、移管票を書きはじめた。送る資料の名、受ける場所、送る者。受ける場所の欄に上の部署名を書いた。送る者の欄に自分の名を書いた。受取人の欄は、移管票になかった。受取人のない資料なのだから、受取人の欄がはじめからない様式だった。受取人のない資料を受ける場所へ送る仕事が、受取人なしで行われた。送る者だけがいて受取人のいない発送が、受取人だけがいて送り手のいなかった電信手の受信と、逆向きに同じ形だった。

逆向きに同じだということを、書いてから知った。電信手は送り手のない電文を受け、私は受取人のない資料を送った。一方は受けるだけがあって送るがなく、もう一方は送るだけがあって受けるがない。二つの場所を突き合わせると、送り手のない送りと受取人のない受けが一行につながった。私が送った資料は送り手のない資料になって上に着くだろう。上の机でそれを受ける誰かは、送り手の欄が空いた箱を受けるだろう。私の名を送る者の欄に書いたが、その名も着くあいだに薄れるだろう。送る者の欄の私の名が、着くころには受取人の空欄のように空いているだろう。

移管が保存の次なら、保存が広がりだったように移管も広がりだった。ただ保存は一つの場所で育てる広がりであり、移管は場所を移しながら広がる広がりだった。保存は束を厚くしたが、移管は束をいくつもの場所へ広げた。保存が深さを増やす仕事だったなら、移管は広さを増やす仕事だった。一つの場所で深くなっていたものが、移管を経ていくつもの場所で同時に深くなった。一つの資料室で育っていたものが、箱に入って別の資料室へ、また別の資料室へ移りながら育った。止めようと一つの場所で手を離しても、箱が次の場所へ行けばそこでまた育った。一つの場所の手を止める仕事では、いくつもの場所へ広がった育ちを止められない。止める手は一つなのに、育つ場所は箱の行くぶんだけ増えた。保存を止められなかったように、移管も止められなかった。移管票に印が押されるだろうし、印が押されれば送らねばならず、送らなければ職務不履行だった。

上へ五つの束を送ったとき、私は空欄が一つ先へ移ったと書いた。いま六番目の束まで送れば、五つめの机は完全に空き、空いた場所は一つの席ではなく机の全体になるだろう。けれど机が空いても場所は残る。保存する場所は机ではなく場所だったのだから、机が空いても私はその場所に残るだろう。束を全部送ったあとも、私は送った場所に座って、送った資料が別の場所で育つのを見ているだろう。送る仕事が、見る仕事を終わらせてはくれなかった。

移管票を書き終え、箱の蓋を閉じた。閉じる前に、六番目の束の終わりの丁を最後にもう一度見た。終わりの丁の最後の行が、端末の本文欄で明滅していた行と同じ行だった。端末が受けていた私の社員番号が、束の終わりの行へ移ってきていた。受けていたものが送られる場所へ来ていた。受取人なしに受けていた番号を、受取人なしに送ることになった。蓋を閉じると、端末の明滅が一拍止まるように見えて、また明滅した。箱のなかに入った行と端末に出ている行が、蓋を挟んで同じ拍子で明滅していた。送っても端末は止まらなかった。送った資料が資料室を離れても、その資料を受けていた端末は資料室に残り、去った資料の行を受けつづけていた。

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