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零時

Midnight

  • 3,866字
  • 約10分

零時には、何も起こらなかった。

十一時五十五分に、手順書をもう一度開いた。零時のあとの最初の項目は、機械を順につけることだ。

つけろという項目があるなら、その前に消すことがある。

消せという項目がない。十七を三度確かめて、ない。

十一時五十六分に、運用の機械を消し、照会用の機械を消した。

試験用の機械は手順書の対象ではない。消せという項目も、つけろという項目もない。そのままにしておけと、一時に本社が言った。

そのままにしておいた。

十一時五十七分、部屋に画面が一つ残った。

壁に時計があって、それが会社の時計だ。秒針がある。

零時を見ようと画面を見た。画面には秒がない。この部屋のどの機械も、秒を出さない。日付を知るには照会をしなければならず、照会はしたあとで結果を見る。

変わるところは見られない。変わったあとだけを見る。

零時、私は壁の時計の秒針を見た。秒針が十二に上がり、分針がついて上がった。何の音もしなかった。

新聞が書いたことは、なかった。会社が切り貼りした記事にあったことも、なかった。

電気は落ちなかった。電話は鳴らなかった。水の音もそのままだった。階段に人の声はなく、通りで車の音が二度した。

八か月のあいだ、この部屋で起きたことには、いつも説明がそばにあった。試験の名残だと言われ、様式の体系が変わったせいだと言われ、二桁表記の限界だと言われた。説明があるのに覆いきれないところが、毎回一か所残った。

今夜の零時には、説明することがない。説明が覆うものがなければ、覆いきれないところもない。

何も起こらなかったことを書く欄はある。異常なしの欄だ。十二か月のあいだ、その欄に「なし」と書いてきた日はいくらもある。今日、その欄がはじめて全部正しい。

零時二分に、試験用の機械を見た。その機械の日付を照会した。

〇〇年一月一日と出た。

三か月ぶりに、あの機械が正しくなった。十月から間違った日付を出していた機械が、零時に合った日付を出すようになった。戻さなかったから、合った。

零時を見届けた機械がこの部屋に一台あって、それは手順書にない機械だ。

零時七分に、別冊の日誌を開いた。

前の章が〇〇年十二月三十一日だ。今日の章に〇〇年一月一日と書いた。

別冊のはじめの何章かが〇〇年一月だ。だからこの冊のなかでは、一月が先に来て、十月と十二月がそのあとで、一月がまたそのあとに来る。一つの年のなかに、一月が二度来た。

別冊には巻の表示の欄がない。同じ年が二度あるなら、前のものとあとのものを分ける表示がいるはずなのに、年の欄が一つあるだけだ。

分けられないから、この冊は十三か月ある一年を書いている。

零時十分から零時四十分まで、零時のあとの六つを順に片づけた。

運用の機械をつけた。日付を照会した。二〇〇〇年一月一日と出た。四桁だ。

照会用の機械をつけた。同じだった。

六つのプログラムの日付を順に照会した。五つが四桁で出た。

六つめが、二桁で出た。

適用完了と書かれているものが、二桁で出る。

八か月のあいだ、直したものがまた間違って広がるさまを見てきた。今日は、直したものが広がらず、直したはずのところが直らないままでいる。

その一つが、索引の照会だ。

一時に、写しを対照した。零時のあとの二十二番目の項目だ。

第二百三十二章の数値の欄が埋まっていた。五百二十五だった。

朝の検索が五百二十二だ。三つ増えた。一日に三つずつ増えてきた数で、今日はまだ一時だ。

一時五分に、警備員が下りてきた。三人とも異常なしだと言った。資金部の人がさっきコーヒーを淹れてくれた、と言って上がっていった。

一時十分に、索引を照会した。零時のあとの二十三番目の項目だ。

結果の件数は合っていた。七千三百六十二だ。

並び順を見た。

最初の行が、二三年ではなかった。

最初の行が、〇〇だった。

〇〇の下が二三と二四と三四と三七だ。その下が九七、九八、九九だ。

二桁で並べば、〇〇がいちばん前だ。十月にそれを知り、そのときは試験用の機械で見た。今日は、この部屋の索引で見ている。

〇〇に入っているものが、一つある。

資料番号を確かめてみた。十一か月前からこの部屋にあるものでもなく、三階から来たものでもない。

十一月五日に、私が登録したものだ。

五つめの束だ。

年の欄を空けたまま登録した。書くことがなかったから、空けた。

空いた欄が、二桁の〇〇として保存されている。〇〇は一九〇〇と読まれる。

空けておいた欄が、この一覧でいちばん古い年になった。

七月に、空欄には二通りあると書いた。あのときは、書く暇がなくて空いた欄と、書く人がまだ行っていない欄のことを書いた。三つめがある。書くことがなくて空いた欄だ。

その三つめが、一覧の最初の行になった。

一時三十五分に、その一覧を上から八行、写し取った。

〇〇が最初の行で、その下の四つが箱に入っている四つで、その下の三つがこの部屋の記録三つだ。八行とも、机の下の箱か、この部屋の抽斗にある。七千三百六十二行のうち、八行がそうだ。

八行が上に集まったわけは、年だ。〇〇と二三と二四と三四と三七が前に立ち、九七と九八と九九がうしろに立つ。うしろに立つ三つがこの部屋の記録三つで、その三つの最後が私の日誌だ。

写し取ってから、八行をもう一度見た。名前を書く欄は、この一覧にはない。資料番号と年と表題があるだけだ。

番号と年で立っている八行に、人が八人いるのかどうかを、一覧は言わない。

一時四十分に、本社へ報告を入れた。零時のあとの二十四番目の項目だ。異常なしの一行と、プログラム一件の二桁表記の一行だ。

索引の並び順は書かなかった。並び順を書く欄がない。

二時に、勤務が終わった。

日誌を開いた。二時までのことを、どの章に書くのか。

様式に、勤務単位の欄はない。日付の欄がある。

日付で書けば、二章になる。

二章に書いた。第二百二十四章に零時までを書き、第二百二十五章に零時のあとを書いた。一つの勤務が二章にまたがる。十二か月のあいだ一日が一章だったのに、今夜は一晩が二章だ。

第二百二十五章の日付の欄を埋めながら、手が止まった。

様式の年の欄は二桁だ。十二か月のあいだ、その欄に九九と書いてきた。

〇〇と書いた。

この部屋で、私の手で〇〇と書いた、最初の行だ。

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