エルリクはテュルク・モンゴル神話で死と地下世界を司る神だ。地下から死と疫病、悪霊を引き上げて人を苦しめ、その魂を奪い取ると伝えられる。シャーマニズムの描写では豚の顔と歯に人の体を持つ姿で、黒い目と眉・口ひげを備えた筋肉質の老人として描かれる。
エルリクは最高神カイラが創った存在で、光の上界を治めるウルゲンと兄弟の間柄だ。ウルゲンと対等になろうと望み、大地の九層目の牢に送られ、上方の光の領域と対立する位置に置かれたという話が伝わる。彼を崇める巫者は「黒いシャーマン」と呼ばれ、悪霊と交渉する役を担った。シベリアのブリヤートなどは、病を防ぎ、あるいは地下世界で良い場所を得ようと彼に犠牲を捧げた。
エルリクには「カラオグランラル(黒い息子たち)」と呼ばれる九人の息子が従う。カラシュ・ハン(闇)、マティル・ハン(勇)、シンガイ・ハン(混沌)、コムル・ハン(悪)、バディシュ・ハン(災い)、ヤバシュ・ハン(敗北)、テミル・ハン(鉄)、ウチャル・ハン(密告)、ケレイ・ハン(不和)がそれで、名の伝わらない九人の娘もいるという。モンゴルではエルレグまたはイェルレグと呼ばれる。こうして彼は中央・内陸アジアのシャーマニズム的宇宙観において、死と闇、そして人間への悪意が一つに集まる位置を成している。