次元の徘徊者は、ラヴクラフトがヘイゼル・ヒールドの代作として書いた短編『博物館の恐怖』に、ただ一度だけ名が現れる存在である。縛られて正気を失っていくジョージ・ロジャーズが相手にこう言い放つ――「臆病者め、おまえを脅すために皮をかぶった、あの次元の徘徊者にはけっして向き合えまい。生きたそれを見るか、まともに思い描くだけで、おまえは恐怖でたちまち死ぬだろう」。ロジャーズはその生き物の皮を剥ぎ、変装の道具にしたと主張する。
短編はそれ以上を語らない。どこから来たのか、ロジャーズがどうやって皮を手に入れたのか、別の次元から引きずり出されたのかも、本文は沈黙する。「次元の(dimensional)」という限定だけが、それが我々の世界の外から来た何かであることをほのめかす。『博物館の恐怖』は1932年に書かれ、1933年に《ウィアード・テイルズ》誌に発表された。同じ作品にはラン=テゴスが登場する。
この存在の恐怖は、描写の不在から生まれる。形も振る舞いも描かれず、ただ「見るか、十分に思い描くだけで死ぬ」という断言だけが残る。知覚そのものが致命的な知となる、認識が即ち破滅であるラヴクラフト的恐怖の凝縮である。しかもそれに残されたのが変装用の皮一枚だけだという扱いは、未知の存在を一個の舞台仕掛けへと貶め、全貌を見せたどんな怪物よりも大きな不安を残す。